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毒入り-2001年3月28日の変更点

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!!!人は火災のみで死ぬにあらず

え〜〜、雑感の更新も滞ってる今日この頃……。
実は私は去年(2000年)の8月でプログラマーから転職しまして、企業規模のコンピュータのメンテナンスをやっております。

それまでは主にパソコンレベルのコンピュータでプログラムをカチャカチャ作っておりましたが、今度の仕事はおもいっきりハードウェア関係の仕事です。
別にガテン系の仕事ではないんですけどね^^;

仕事の内容をちょっと詳しく話すと、いわゆる冷蔵庫ぐらいもあるようなコンピュータや周辺機器の設置や、故障のときの現場対応です。
ある意味ソフトウェアも触るし、ハードウェアも触る。
やりがいは十分な仕事です。はい。

で、そんな仕事をしているうちに先日とんでもなく貴重な体験をしてしまったのでなんとなくキーを叩いています。
その瞬間の緊張感が伝われば拍手喝采……。

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ある日、私はお客さんの所にコンピュータのインストールと不具合の原因調査のために出かけました。
同行したのは私の会社から5〜6人、お客さんの会社のSEの合計15人ぐらいでしょうか。

お客さんの現場は立派なビルの中で、学校の教室が4つ以上入りそうなぐらいのだだっ広いマシンルームがありまして、もうちょっと天井が高ければバスケットコートが2面ぐらい取れそうです。
長方形のマシンルームの長いほうの辺の両端と真中の合計3箇所の出入り口がありました。

朝の10時から始まった作業では、お客さん側のちょっとしたトラブルで遅れが出始めていました。
商用運転しているサーバーはシャットダウンをかけるのに物凄く時間を食います。その待ち時間でした。
ハードウェアのメンテナンスをする事になっていた私は、作業を続けるお客さんのSE達を遠巻きに、眠い目をこすって待ち時間を浪費していました。


すると突然、
「ピヨッ ピヨッ ピヨッ ……」
と何かの警告音のような電子音がするではありませんか。
最初それは壁の方から聞こえたような気がしたので、その壁の中にあるコンピュータ用の冷却コンプレッサーの故障警告音かと思いました。
おもわず近くにいた会社の同僚と目線があいます。

でも、その場から冷却機の運転ランプを眺めていましたが、特に赤いランプが点いたり消えたりしているような事はありませんでした。

マシンルームの中のほぼ全員がこの音に気づいたようです。
で、「ピヨッ ピヨッ」が10回ぐらいなり終わると今度は抑揚のないコンピュータ音声で放送が流れました。

「火事です。消化ガスを放出します。直ちに室外に退避して下さい。」

なぬ?!

どうやらエアコンの警告音ではないようです。
しかし、見渡してもどこにも火が出ている様子はありません。
小学校や中学校の「誤報」の経験が染み付いてしまっている私は、「警報音」とか「非常放送」というものに対して信頼感を完全に失っていました。
「どうせまたこれも誤報で、すぐに取り消しの放送がかかるんでしょ?」
と、タカをくくっていたのです。

しかし、確かここのマシンルームの入り口には黄色い札で「この部屋にはガスによる消火設備があります。放送があったら速やかに逃げてください」みたいな掲示があったので、なんかあったらマズイから逃げた方がいいのかな〜〜〜なんてちょっと思ったりしました。
同じ事を視界にいた同僚も感じたらしく、アイコンタクトをとって出口の方へなんとなく歩き始めました。

誰もまだ事態をそんなに深刻には考えていなかったと思います。
私の後ろの方でお客さんと作業をしていた数人も、特にそこから動きそうな気配はありませんでした。
放送はコンピュータ音声の2度目の繰り返しに差し掛かっていました。
私は戸口まであと15mぐらいの所にいたでしょうか?
私の前の同僚は自分のカバンを取って出口の方へゆっくりと向かっています。

「火事です。消化ガスを放出します。直ちに室外に……」
「ブシャー!!!!」

一瞬何が起こったかわかりませんでした。
非常放送は強烈なガスの噴射音でかき消されました。
ホコリが舞い上がり、あたり一面が一瞬で真っ白になりました。
どうやら消火ガスの放出がはじまったようです。

放出なんて生易しいものじゃありません!
例えるとしたら、自動車のタイヤの空気入れです。あれの10倍ぐらいの強力版が天井に5m間隔で設置されて一斉に「噴射」されている状況を想像してください。
しかも勢いは全く衰えず、真下にいた同僚の頭が一瞬上から押さえつけられたのが見えました。

気圧の変化で耳が痛い!
何より、火を消すガスなので吸ったら窒息死してしまうのではないかという事は誰もが考えたようです。
一斉に息を止めてドアへダッシュします。
噴射の轟音響く中、ほっぺたを膨らませて必死に息を止めて走る10余人の光景はパニック映画顔負けです。

私より先にドアに辿り着いた人たちはドアのかぎを開けてドアノブを回しています。
ここのかぎは鍵ノブを一旦倒して、その後でドアノブを回す仕組みのものでしたが、なぜか誰も開ける事ができずにいました。
みんな非常事態にパニックしているのかと思い、私も試してみましたが、やっぱりドアは開きません!!

無言の叫びがみんなの間に響きます。
こうしてる間にもガスはさっきと変わらない勢いで噴射されつづけています。
とにかくこのドアを開けて逃げなければこの部屋が無酸素状態になるのは確実なようです。

時間にしてわずか15秒ぐらいでしょうが、何人かが入れ替わり立ち代りで鍵を開けようと挑戦しますが、無情にも扉は開きません。
息もだんだん苦しくなってきています。

確か隣の部屋は別の会社の人たちが作業をしていたはずです。
この部屋に入ってくる時に見た記憶があります。
ひょっとしたら向こうからは簡単に開くかもしれない!!
私は扉をこぶしで力いっぱいガンガン叩き始めました。
他の人たちも同じような結論に達したようです。
誰ともなくガンガンと扉を叩いていました。

もう息が続きません。
思わず息継ぎをしてしまいましたが、特に刺激があったり、痛いような事はありません。
でも気のせいか息苦しくなってきています。
「早くしないとマズイ。絶対に出てやる!!」
でも不思議と「死ぬかも」とは思いませんでした。死ぬ事を考えるよりもとにかく脱出する事で頭が一杯でした。

っと、その時、思いが通じたのか、ドアが向こう側から開けられました!

たまたまドアの一番前にいた私は速攻でドアから抜け出し、駆け足で向こうの部屋に飛び込んでいきました。
あっという間に向こうの部屋の端まで行ってしまいました。
恐るべき逃げ足……。

そこで他の人が気になってドアの方を振り返りました。
出てきたドアの上には「ガス放出中」の赤い表示灯が点滅し、緊急だった事を物語っていました。

よくよく気づくと、ここの部屋はガスは噴出していませんでした。
やっと息を吸い込み、一心地つくことができました。
何となく思い込みで、このフロア全体でガスが放出と思っていたので、ちょっとだけ安心しました。

エリアの出口の方から施設管理のつなぎを着たおじさんが「早く出ろ!早く出ろ!」と誘導していました。
何とかマシンルームエリアから出る事ができ、ガス消火装置のない区画のようです。
階段前の廊下に座り込み、大きく肩で呼吸をしていました。

緊急事態がとりあえず去るといろんな事がリアルに反芻されるようになりました。
「あのまま部屋にいたらどうなっていたんだろう」
「何でドアが開かなかったんだろう」
「隣の部屋のおじさんが開けてくれなかったらドアは開いたのか?」
「次の部屋もガスが噴出していたら……」
そう考えると急に恐ろしくなってきました。
きっと今回はとても運が良かったんだ……。そうとしか思えません。

誰かが言いました。
「人間は一人死んでも1億円。でも機械は1台ン10億円。」
そうか、それでスプリンクラーじゃなくて窒息ガスなのか。
企業にとって人間って所詮一番安いものなのか……。

ちなみにガスの成分は窒素、アルゴン、二酸化炭素の混合で別にそれ自体に毒性はないことがわかった。

マシンルームが今どうなっているかわからないが、相当量のガスが噴出していたからきっと今入る事は危険だろうという事で、そのままお昼に出る事になった。
近所の中華料理屋でワンタンメンを食べた。
命拾いした後、その時の状況についてかなりハイテンションな会話が飛び交っていたが、何よりも「生きてラーメンが食える!!」、それだけで十分だった。


結局ガス噴出のせいで3時間ほど作業が遅れる事になった。
夜中になってしまったがまだ作業は終わらず、私たちは昼間に殺されかけたマシンルームで仕事を続けざるをえなかった。

が、エレベータホールの方で何やらガランガランと音がする。
工事か?とも思ったが、トイレに出た時にその音の正体が分かった。
さっき我々を殺しかけたガスのボンベである。

直径は60センチぐらい、高さは2mを越えるような大きなボンベが、エレベータホール周りに置かれていた。それも20〜30本。
量に驚いた。

「あれだけガスがあればあれだけの勢いで出るよな……。」
納得したような、あきれたような。

しかしそれだけじゃなかった。
タバコを吸いに外に出ると、さっきのボンベが外のトラックのところに後40本ぐらい積まれている。
正直唖然とした。
私たちは一発でこんなに大量のガスを浴びたのか?!
「あれだけあれば死ぬよな……。」
大いに納得した。

ちなみに、結局原因は探知機の誤作動による誤報だったらしい。
私たちは誤報で危うく殺されかけたらしい。
助かったにせよ、精神的ダメージはかなり深い。


皆さんも非常ベルや非常放送がかかったら何が何でもまずは逃げましょう!!
死んじゃってから「誤報でした」じゃ遅いですから(笑)