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2001年2月9日金曜日(EST) [出張20日目:Milford, Boston]


「Never say never !!」

今日は研修最終日だ。
最終日はほとんど研修らしい研修はなく、昨日の帰りに仕掛けていった設定が正しく動いているか確認いた後、アンケートを書いて研修の認定証をもらって終わりとなった。

クラスメイトはそれぞれ自分の国や街に帰っていく。
アメリカ国内の人やヨーロッパの人々は大体今日の夕方の便で帰っていく。割と遠くの人や私のような遠方の人間は明日の朝一番の飛行機で帰る人が多いらしい。

色々と面倒をみてくれたLennyとも今日でお別れだ。
「もう会うことはないかもしれないねえ」と言ったら、

「Never say never. Tsubasa, Never say Never!」(絶対なんて絶対言うなよ!)

と言われてしまった。
途端に何かこみ上げるものがあった。
同じ会社で働いていることには変わりないが、それでもシカゴの支店と共に仕事をすることはまずあるまい。
次の研修だって同じクラスになれるとは限らない。いや、ならない確立のほうが圧倒的に高い。
Lennyが日本に来ることもまずあるまい。
でもLennyのそんな温かい言葉に何だか涙が出そうになった。

「もし日本に来たらいっぱい寿司を食わしてやるからな!」「楽しみにしてるよ」

そう言って別れた。がんばってくれ、Lenny!


研修場を出て、今夜泊まるホテルを目指す。
途中で「何かお土産でも」と思って渡航資料にあったショッピングモールに行って見たが、何だかお土産になりそうなものはなかった。
仕方なく「Friday」というレストランで遅めの昼飯を食って、一路東へ、ボストンの市街地に向かう。

夕焼けの州道9号線を東に進む。
ボストンの市街地に着く頃には日が暮れかけていた。
先先週に遊びに行った時のように、夜のボストンはきれいだった。
遠くの高層ビルには明かりが灯り、中央分離帯の木々にはクリスマスのような電球の飾り付けがしてあった。
パブの看板や広告が暮れかけの夜闇に浮かんで、その上を空港から飛び立つ飛行機のフラッシュライトが横切っていく。

が、そんなのんきなことは言っていられない。
研修場から先に東京へ送った荷物の中に地図が入っていたのを思い出したのは市内で迷った後だった。
おまけに夜になってしまったので方角すらわかりづらい。
いつの間にか東に向かっていたはずが、市内のどこかで西に向いてしまったらしい。
ケンブリッジの方に来てしまった。手元にはホテルの周りの手書きの地図があるだけなので、ホテルに近づくまでは役に立たない。

ケンブリッジから市内へ戻る。
途中の道は曲がりくねっている上に、とっても交通量が多い。おまけに狭い。
何とかハイウェイではない30号線に乗ることができ、今度は方角をちゃんと確かめる。ボストンの東は海なので、EASTの表示に従っていればボストンを通り過ぎることはないはずだ。
ちなみに、アメリカの道路標識には「EAST」「WEST」「NORTH」「SOUTH」などの方角の表示が路線の表示と共に出ているのが普通だ。

ボストンの中心部に程近いところで突如渋滞が始まった。
前のほうではバンバンクラクションが鳴っている。「おお、すさまじや」と思っていると、前の方からなにやら看板を持った人が渋滞の車の列の真中を歩いてこっちにやってくる。
「なんだろう?」と思って看板を良く見ると……

「ホームレスです。
 寒いです、お腹がすいています。
 暖かい部屋とスープを誰か下さい!」

……おいおいおい。
西洋人の年齢は良くわからないが、どう見てもまだ子供だ。ブロンドに青い目をした女の子は寒空にぼろをまとい、看板を首から下げて過ぎ去っていった。
顔についていた擦り傷は車をよけるときにできたものだろうか?
何でこんな女の子がホームレスをしているのだろう?悲しそうな目が心に刺さる。
都会の悲しい一面を見た気がする。あの子は無事に温かいスープにありつくことができただろうか?

やがて道はボストンの中心部に差し掛かった。
さっきの9号線とは違った場所の中心部に着いたようだ。先日歩き回った南ボストン付近のようだ。
今夜のホテルは「リーガル ボストニアン ホテル」。マーケットプレイスという街区で、前はコロンブス公園、後ろには州立の大きな公園があるはずだ。

まてよ……。
見慣れた場所に来たせいか、何だか頭が冴えてきた。
確か、「コロンブス公園」というのはチューしてるカップルに写真を撮ってやった場所じゃないか?
それに「マーケットプレイス」というのは近くにバー街があって、新目のショッピングモールのあった場所じゃないか?
一度とおった場所じゃないか?

I-93の高架の下をくぐり、わき道に入る。
バラック作りの「市場」が明かりをつけて商売をしている。ここがマーケットプレイスの東のはずれのはずだ。
街区沿いに外を回ってみると……あった!!ホテルだ!!
想像していたよりもかなり立派で、伝統がありそうなたたずまいだ。周りはロンドンの下町のような町並みで、その中に溶け込むようにボストニアンホテルはあった。
あまりに突然の出来事だった為、入り口を通り過ぎてしまいもう一周する羽目になったしまったが……。

入り口は建物の前にぽっかりあいた穴。
日本ならタワーパーキングの入り口を連想する大きさだが、中に入ると吹き抜けのロータリーがある。
さすがアメリカ。土地の使い方が違う……。

ドアボーイのおじさんに「ここはリーガル ボストニアンか?」と聞くと、「そうだよ」と答える。
思わず両手を上げて「I got it !!」とガッツポーズをすると、「Welcome to Boston.」と答えてくれた。

荷物を持って部屋に行く。
4階の部屋は落ち着いた感じで、前に泊まっていたコートヤードホテルよりも都会な感じのおしゃれな部屋だ。
どの道1泊しかしないんだけどね。

「氷はルームサービスに頼んでください」と札が置いてあったので、早速ルームサービスに氷を頼む。
いかにも、想像どおりのホテルのサービスマンなおじさんが腕にナプキンを下げ、片手でアイスポットを持って現れた。
笑顔がとても粋だ。
「何かご要望があったらいつでも呼んでください。いつでも。」とウインクをして部屋を出て行った。かっこいい!!

窓からはマーケットプレイスの裏通りが見える。さっき通り抜けた市場があるあたりだ。
お世辞にも「きれいな町並み」とは言えない。歌舞伎町のビルの裏通りのような景色だ。パトカーがサイレンを鳴らして通り過ぎる。
酔っ払ったコ汚いおじさんが千鳥足で通り過ぎていく。まさしく裏通りだ。ハイウェイの車の音が結構うるさい。
これでニューヨークだったら銃声の一発でも聞こえるかもしれない。^^;

バーに飲みに行こうかとも思ったが、明日の飛行機の出発時間から逆算すると朝の5時ごろには起きなくてはならないので寝ることにする。
バスローブがあったのだが、外人サイズなのでもの凄く大きい。私が着てですら袖からこぶしの先がやっと出るくらいだ。
子供が大人の真似してるみたいでみっともないのでいつもの格好で寝る。誰が見ているわけでもないのにね^^;

そんなわけでボストン最後の夜はハイウェイの音と共にふけていく。


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