ファーストソロ顛末 その2:自分で飛ぶということ

そんなわけで、相変わらずダラダラと長い顛末の後半です~。
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翌1月9日は3連休最後の月曜日(成人の日)。

天気は「昨日よりもマシになるか?」なんてもんじゃなくて、
どカームです・・・・・・。
時々ウインドソックが忘れたようにコッチがわにゴロゴロ~っと支柱の周りを転がる事がある程度。
えーっと、今何月でしたっけ?

 天気予報を見ても1日荒れる気配もなく、
「これはソロ出せる日だろ…( ̄◇ ̄;」
いや、むしろ出れなきゃダメでしょ。
ソロに出れますようにとの願いも込めてここ最近用意していなかった着替えも用意。
(何の為の着替えって、そりゃぁもちろん水かぶった後そのまま帰ったら風邪ひくでしょうが。)

昨日、某ハンガーオーナー殿にカブの後ろに荷台を取り付けるための工具を貸して頂ける事になっていたので、カブで飛行場へ。
ここまで来ると環境的な懸念は「クラブ員や機体が多過ぎて上空が混雑しているからソロに出れない!」って事態で、
特に今日は連休最終日なのでちょっとドキドキでした。

気温もそれほど低くなく、主翼の上の霜もすぐに融けた模様。
ちょっと出遅れてしまったので1番機というわけには行きませんでした。
でもそんなに人出も朝から際立って多くはなさそうな感じ。
今日の同乗教官は……YMM主任教官の磁石が名前の隣に!

ソロチェックだろうなぁ、と思いました。
狙っていなかったといえばそんな事はありませんが、このどカームでYMM教官乗っけてやる事といえばソロチェックしかないだろうなと。
どうりでクラブハウスに入った時の皆さんの視線に何か含みがあるわけだ。
緊張します。
この振って湧いた様な風のコンディション、ここ数週間密に乗っていた自分のコンディション、そして主任教官。
これでソロに出られなかったら自分のふがいなさにしばらく立ち直れないだろうなぁと思いました。

自分の番を待つ間、何をやっていたのか思い出せませんが、なるべく頭の中を空にするように勤めました。
細部までシュミレーションにシュミレーションを重ねてもいつものようにドツボにはまるだけ。
ただ、「いつものように行ってこよう」とそれだけを考えていました。
もう手遅れなのでしょうが、ソロチェックかもしれない、主任教官を隣に乗せて、でも「いつものように」…。
(着替えまで用意しておきながら「いつものように」も何も無いもんですが…。)

果たしてもうすぐ12時という頃に自分の番が回ってきました。
JA2351に乗り込みます。
機外点検を済ませて、左席のクッションを後ろに片付けて、マイクを外して、ヘッドセットを挿して、シートベルトがねじれていない事を確認して、ラダーペダルの位置を調節する……。

そういえば前に主任教官と乗ったのっていつだっただろう?
多分1年ぐらい前に、やたらと風の強い日で、3回ぐらいTGLしてヘロヘロになった気がする。
やたらと風が息ついているアップウインドで110km/hを死守しようとしていたらスティック引かれて、「こういうときは地上の乱流をとっとと抜ける!」と言われた気がする。
その前は多分まだエアワークやってた頃で、「角を直角に曲がろうと考えない」「操作は手順をデジタルに行うのではなく、そうなるように滑らかに操作する」という事を言われた気がする。

遅れてYMM教官が乗り込んできて「じゃ、進めて下さい」と訓練が始まる。
チェックリストを進めてエンジンをかける。
人もトラフィックもそれほど多くは無いけど、チェックリストをやりながらも無線は聞く。
タキシングを始める前にウインドソックをチラッと見る。
まだ朝と同じほとんどカームな状態。
RWYも07でどちらかといえば25よりは苦手ではない。

ハスキーの隣の舗装スポットからタキシングして西のターニングパッドへ。
ランナップ。周りの安全を確認してフルパワー、アイドル、操縦系統のチェック。

問題ないのでラインナップの無線を入れて滑走路に出る。
中央の白線を体の下に来るように合わせて、遠くの送電鉄塔が少し左側に来るようにして滑走路と平行に。
尾輪もまっすぐ前を向いていることを確認する。
トランスポンダーのモードをALTに切り替えてDG(ジャイロコンパス)が「07」を向いていることを再チェック。

自分「では、行きます」
教官「どぞ」
自分「大利根Local, JA2351、テイクオフ RWY 07」

ペダルの足を中央から両端に移してブレーキを解除する。
真っ直ぐに前に進み始めたらフルパワーに入れる。
足で滑走路の真ん中をキープする。
速度計が動き始めて40~50km/hぐらいになったら徐々にエレベータ中立からややダウンへ。
押し過ぎないようにしながら尾輪を浮かせる。
尾輪が地面を離れた瞬間に持っていかれないように注意する。
滑走路の3本線(中間)を過ぎる頃には浮ける速度になる。
足が離れたら速度計に合わせながら上昇ピッチへ。

とりあえずここまでは何とかうまくいった。
200ftで3000回転へ少しスロットルを戻し。
騒音対策で右に少し変進。
400ftで補助燃料ポンプoff。
エンジンカウルの少し上に水平線があるようにピッチを保つ。
速度計が110km/hであることを確認する。

クロスウインドターン、レベルオフ、
ダウンウインドターン。

教官「もう少し川に寄って。」
自分「はい」

ダウンウインドへのターンが少し早くて川への寄りが少なかったようです。
高度とバリオと速度が安定したのを確認してプレ・ランディングチェック。

フューエルコック・オープン、(コックが前後を向いている事)
チョーク、キャブヒート、オフ、(2つのノブが最後まで押し込まれている事)
燃料ポンプ、オン、(右席前の黄色のスイッチ)
エンジン計器、確認、(自分ルールでエンジン計器は左上から右に向かって上の段を見て、右下から左に向かって下の段を見る)
900ftを維持します。(高度計とバリオ)

ダウンウインドの目印にしている新利根川はダウンウインドに対して少し斜めになっていて、西に行くと少し南に曲がっている。
左翼に滑走路の中心がかかるぐらいでボイスを入れる。

大利根Local, JA2351 オン レフト ダウンウインド、 RWY07、タッチアンドゴー。

自分でも声が震えているのがわかる。
でもとりあえずここまで大きなミスは無い。

後ろにはトラフィック内にセスナが1機。
GROB G109Bはセスナより遅いのでちょっと緊張する。

赤白鉄塔の2本先の送電鉄塔の上を通るようにターンしてベースに入る。
飛行場に近づき過ぎないようにコースを取って、SMN教官の言った事を思い出しながら滑走路を観察する。
滑走路を横に見ながらパスを意識して降下を開始する場所を選ぶ。
「ここ」と思った場所では滑空姿勢に移行している間に通り過ぎてしまうのでその前にスロットルを絞る。
キャノピーについているマグコンの少し下に水平線があるぐらいに頭を下げて115km/hに落ち着くのを待つ。
姿勢が正しければ115km/h、バリオが-1のほんのちょっと上あたりで安定するので、トリムを取る。
うまくいくとこの操作が終わった時に高度計を見ると800ftに差し掛かる直前になる。

今日は風が無いのでファイナルターンは「普通の場所」になる。

大利根Local, JA2351、ターニング ファイナル、RWY07、タッチアンドゴー。

少しターンが早かったがファイナルで修正可能な範囲内だと思った。
少し右へ流れた進路でターンを終え、軸線に乗るまで真っ直ぐ。同時にパスを観察する。
速度が115km/hであることを確認する。

スロットルが確実に引ききってある事を確認して、トリムが降下姿勢で釣り合っている事を確認して、
スティックを右手で持ち替えて左手でスポイラーを持つ。
スポイラーを3cm開けて風切り音とスティックとスポイラーにかかる抵抗を確認する。
同時に姿勢を調整して頭が押さえられないように、速度が抜けないように注意する。

滑走路の軸線に乗ったところでもう少し左にターンして正対する。
今日は風もないので左右に大きくブレる事もない。ウイングローもほとんど要らないから引き起こしのタイミングを間違えなければ良い。

「07」のマーキングがだんだん大きくなるので、ここで視線を前に移して「25」がちゃんとあることを確認する。
このままだとまた「右車線」に降りる事になりそうなので左に少し修正して、修正した分のヘディングを右に修正する。

飛行場に入った所でスポイラーを少しずつ全開にして、水平線を見る。
「高度1mで水平飛行になるように」スティックを少しずつ引く。
まだ少し右車線に寄っているけど、しょうがない。フレア中にどうにかできるものではない。白線は左足の30cm外にあるけど危険と言うほどではない。

ガッ…コン。

滑走路に降りても中心を維持するようにペダルで調節する。
速度が死んで浮き上がらなくなったらスポイラーを閉じてフルスロットル。
プロペラ交流で首を振ろうとするのを足で押さえて真っすぐを維持。
頭を下げて尾輪を浮かす。
主輪が浮いたらスピードに合わせて徐々に機首を上げて上昇姿勢に持って行く。

……と、自分ではなかなかうまく行ったつもりだったんですが……。
2周TGLしたところで、

教官「次、フルストップしてください」

と言われましたが、何かちょっと様子が違う。
ダウンウインドでフルストップを宣言して着陸。

教官「見ている所が違うんです。スピナーのあたりを見てませんか?あなたの正面はもっと左のはずです。
RWYの反対までバックトラックして下さい。」

後続機が離陸したのを確認してRWY07へバックトラック。

教官「ちゃんと白線をまたいで。」

自分では自分が白線をまたいでいるつもりなのですが…。

再度RWY07から離陸。
左旋回から戻る時に「右足が踏めていない」との指摘。
さらに2周した所で再度フルストップ。

教習中止。
エンジンを止めてクラブハウスに向かいます。

正直に白状します。
この時の自分の気持ちとしては「なんで?」「何がダメなの?」と、ガックリするよりは正直ちょっと腹が立っていました。

おそらく今回エンジンを止めた原因となった事は「スピナーを見て飛んでいる」事だと思ったのですが、それはかなり前に指摘されていて今ではちゃんと「エンジンカウルの左角」を見て飛んでいたはずです。

主任教官は去り際に、「後でもう一回飛びましょう。ホワイトボードに名前を書いておいて下さい。」と言ってクラブハウスの外に行きました。
別件で15分席を外すとのことでデブリはその後にという事でした。

「他に何かミスっていたのか?」と頭の中がグルグルしていました。

引き起こしの開始ポイントがまずかったのか?
着陸がどうしても右車線に寄りがちな事がまずかったのか?
ダウンウインドがぴったり川に沿っていなかったのがまずかったのか?
などなど、
自分でもその時は相当しょうもない重箱の隅を頭の中でつつきまわしていたと思います。

やがて主任教官が戻ってきてデブリが始まりました。
KKI教官も一緒です。

これを書いている時点で当時から2週間ちょっと経っていますが、正直、その時の話のディテールは直後にも覚えていなかったと思います。でもデブリの内容は大体以下のような事でした。

やはり主任教官の指摘点は「スピナーを見て飛んでいるのではないか」という事でした。
が、それについては実際スピナーなんて見て飛んでいないのですから、当然自分は反論しました。

主任教官曰く、
「とにかく、左ペダルが好きなようです。
スピナーを見ているかどうかは知らないけど、とにかく見ている所が違うから滑って飛んでいる。
今日はRWY07で左回転だから旋回の入りの時はラダーが十分踏めているけど、旋回の戻しの時に右ラダーが十分踏めていないです。
ボールを見て下さい。いついかなる時もボールは中央になくてはいけません。

でも、それに全く気が付いていない。
それは旋回毎に目標を取ってない、取っているかもしれないけど「見ていない」という事です。
旋回前に旋回方向を確認してコールしていますが、それが形だけになってしまっているという事です。

それと、1回目でダウンウインドが川から離れ過ぎていると指摘しました。
でも、その後もダウンウインドへ入る旋回を始める場所が同じなんです。
旋回のゴール地点が変わるんですから、旋回のスタート地点が変わるべきなんです。」

自分は、自分が今までできていた事が出来ていないと指摘されてガッカリしました。
ソロだと浮かれていたけどエアワーク時代に指摘されていた事すらできていないじゃないか…。

主任教官曰く、
「Tsubasaさんはおそらくこれから飛ぶことを一生の趣味にして行くのだと思います。
これから全く矛盾する話を2つします。

まず一つ目。
飛行機は諸元で飛ばすという事です。
チェックリストやら、飛行規程やら、そういう決まり事があります。
Tsubasaさんはそれらをきちんと実行し、それを守ろうと努めている事はよくわかります。

しかし、諸元というのは目的の為に作られたものです。
ただ諸元を守って飛べば良いというものではありません。
目的を持たない諸元なんて意味がないんです。

二つ目。
その諸元を外れた時にそれをどうするかという話です。
例えば水平飛行をしている時に高度が変わってきたとする。
トリムが取れていないのかもしれない、燃料の重さが変わってきたのかもしれない、サーマルかもしれない。

どうして高度が変わってきたか、まずは「考えて」ほしいんです。
そしてその上で対処をしてほしいんです。」

なまじ飛べるようになって来たが為に「考えて飛ぶこと」と「見て飛ぶこと」がおろそかになっていたんですね。
確かにその通りだったと思います。
衝撃でした。
大事なのは「手順を覚えること」ではなくて、「正しく見れること」と「考え続けられること」なのかもしれません。

「空は自由に『飛べてしまう』。だからいつでもそれを律する必要がある。」

KKI教官曰く、
「毎回同じ結果を得るために、毎回違う事をして、結果的に同じ結果を得る。
毎回同じ結果を得るために、毎回同じ事をするから、同じ結果になるのではない。」

「誰か言わなくちゃならないとは思ってたんだけどね。
でも、いい感じで飛べているし、せっかく本人が掴めて来ているから誰も言えなかったんだよね。
『じゃあ俺が乗ろう』ってYMMさんが言ってくれてね。
まあ、なんだかんだ言ってあの人はやっぱりすごいと思うよ。言う事は間違ってないよ。
ちゃんとみんなが思っているモヤモヤしていたものを言葉で説明してくれんだから。」

まさに目からウロコでした。

確かに、ここしばらくはソロに出る事が目的化していて、「うまく飛ぶこと」ばかり考えていました。
「きちんと見て・考えて飛ぶこと」をしないで「お手本どおりに飛ぶこと」を良しとしていたと思います。

僭越ながら、今朝の時点で「ソロに出られる技術的最低ライン」は自分でもクリアできていたと思います。
でも、それをそのままソロに出されていたら多分この事には気が付かないで、この先間違った訓練を続けてしまったと思います。
それを「まあ飛べてるから良いか」でソロにほっぽり出さないで「自分で飛ぶということ」をもう一度思い出させてくれた教官陣に感謝です。

(でも、これだけの重要なデブリをきっちりとノートに取っておくことができなかったことは非常に痛手でした…。。
上に言っている事や順序は違うかもしれません。でも多分こういう事だったんだろうと今は理解しています。)

ホワイトボードの一番後ろに名前を書いたので、夕方前にもう一度飛べることになりました。
とりあえず昼食のあんパンをかじりながらクラブハウスの前に降りてくる機体をぼーっと見ていました。
あんパンがちょっとしょっぱかったです。

つづく