ファーストソロ顛末 その3:「じゃあ、いってらっしゃい。」

 世の中には3種類の人間がいる。
数を数えられるヤツと、数えられないヤツだ。

そんなわけでファースト・ソロ完結編。
前の記事はこちら(その1)こちら(その2)


かくして2時半頃に練習機が2機空きました。
クラブハウスの前に止めてあったJA2429を選びました。

JA2351の方が機体の製造番号が少しだけ若いので、ラダーペダルの調節が前かがみにならなくてもダイアルでできるのですが、
今の29はエンジンの調子がよく、びっくりするぐらい上昇力が良かったので選んでみました。
上昇力が良いからと言って特にトラフィックの中で何か良い事があるかと言われると微妙なんですが…。
まあ、実はあんまり何も考えていなかったというか。
(数時間で「常に考える」という事が頭から抜けているアホ訓練性…orz)

本日2回目の訓練は同乗はKKI教官。
風、RWYは先ほどと変わらず。
この日の日没は16:40頃。
トラフィック内は飛行機が2機、タンデムファルケが1機のまあまあの混雑具合い。

とりあえずKKI教官が用意をしてくる間に機外点検を済ませます。
乗り込む前に尾翼の左前に立って左座席と後部胴体、ドアの上側ヒンジの位置を見て、機体の前後方向の延長線上前方に何があるかを確認します。
ダウンウインドにある鉄塔とゴルフ場に生えている木の枝あたりが現時点の「まっすぐ前」なのを確認して乗り込みます。

座席を調整してラダーペダルを調整して、自分の股がちゃんとスティックと両ラダーペダルの間の延長線上にあることを確認してシートベルトを締める。
その状態でさっき見た「まっすぐ前」がどこに見えるかを確認する。
左席のダッシュボード上のスピーカーの左縁と、カウルの上に張られたテープの少し左を延長したあたりがまっすぐ前らしいので、それを覚える。
それと、今の状態が着陸寸前の「3点姿勢」なので、水平線とエンジンカウルの位置関係をもう一度確認する。
プレ・ランディングチェックをしてみて頭をヘッドレストから動かした後、ちゃんとさっきの位置に戻ってきているか確認する。

そんなことをやっているうちにKKI教官登場。

KKI教官「もうちょっとイメトレしていく?」
自分「いえ、行きましょう。」

日はだいぶ傾いてきている。今日はRWY07なので夕方でも眩しくない。

チェックリストを確認しながらエンジンをかける。
西側ターニングパッドへ行ってランナップをする。
その時にもいちいちわざと遠くに目標を決める事をやってみる。

無線を入れて滑走路にラインナップする。
なるべく意識をしてわざと遠くを見るようにする。
計器類をブン投げてしまうのも操縦として正しくは無いので、時間にしてさっきの半分ぐらいにするように心がけてみる。

自分「(クロスウインド上で)あの煙突のある工場に向かいます」
KKI教官「工場に向かって飛ぶの?それともヘディングを工場に向けるの?」
自分「工場に向かって飛びます。」
KKI教官「……いいんじゃない。」

ダウンウインドも「川に乗ってしまえ」というぐらいに近づいてみたけど、自分が思っていたよりも遅くにターンしても「今日は」大丈夫ならしい。
確かに川に寄り方が足りなかったらしい。

左旋回からの戻りも自分でも「やり過ぎか?」と思うほどラダーを踏みこんでボールが反対側に滑るのを確認したり、別の時に減らしたりしてみた。
時々自分の足を下目づかいにのぞきこんで、右と左のペダルがちゃんと中立になっているか確認してみたりした。

TGLを2回、ダウンウインドで、

KKI教官「うーん(眉間にしわを寄せて)、次でフルストップして」

……今日もダメでしたかね…。

正直そう思っていました。
まだ正面の見方とか旋回戻しのラダーの「これか!」というところが体感できていなかったので、このままもう一回デブリかなぁ…と思っていました。

フルストップを宣言して着陸、後続機がいたのでバックトラック前に一旦滑走路の外に出ます。

KKI教官「ターニングパッドへ」

西側のターニングパッドへ行きます。
滑走路に直角に止めてファイナルが見えるようにします。

KKI教官「ん~、もう一回YMMさんと乗ってみて」

……あ~、滑りが直らなくてKKIさんにサジを投げられてしまった…orz
ヘッドセットを抜いて機体を降りていきます。

待っている間、目の前に着陸する機体を見ていました。
タンデムファルケはTBさんだなぁ。チェックアウトしたのかなぁ…。
JA41XXの着陸はいつも安定しているなぁ…。
青いセスナもTGLか。
もう1機のG109BのJA2351はMZFさんだなぁ。

実際はそんなに長い時間ではなかったのですが、相変わらず大利根のトラフィックは混雑しています。

YMM教官「おまたせー」

再びチェックをしてエンジンをかけます。
ランナップ省略でラインナップして離陸します。

アップウインド、クロスウインド、ダウンウインド、ベース。
あれ、前に誰も機体がいないなぁ。
って事は全部後ろか。遅くてすいませんね~。

ファイナルをコールしたら後続機がターニングベースでNo.2コール。

とりあえず自分の前の滑走路に集中。
さすがに今日10度目ぐらいの着陸ともなると(後から考えると)それなりに「整った」着陸ができるようになった。
でもまだ何と言うか、自分で「ここだ!」と思ったところに降りられていなくて、白線の真上にガッチリ乗ってフレア…とはいかずまだやや右だなぁと思ってました。

接地して、ランディングロール中、YMM教官が操縦桿を握ります。
あまりにいきなりだったのでランディングロール中にもかかわらず思わず右席を見てしまいました。

おもむろにスティックの上のPTTを押して、
「キャンセル タッチアンドゴー。」

?!?!

YMM教官「バックトラックして下さい。」

RWY西の先の鉄塔を目指してバックトラックします。
この時もいつ「見ているところが違う」「白線の上を通れていない」と言われるかとドキドキしてました。

YMM教官「西側のターニングパッドにつけて下さい」

西側ターニングパッドに滑走路に向かって直角に止まります。エンジンはかけたままです。
RWY上は後ろを飛んでいた飛行機が着陸して一旦滑走路をあけて、さらにその後ろにいた飛行機が着陸するところでした。
両方ともフルストップのようです。

YMM教官「今、トラフィックに何機いますか?」

????

自分「TBさんとMZFさんの2機です。」

YMM教官「では、その2機が通り過ぎたらラインナップしてください」

・・・・・・今のトラフィックと着陸とバックトラックで何を見られていたんだろう?何がマズかったんだろう?

TBさんはタンデムファルケで低速です。MZFさんもG109Bなので飛行機に比べれば低速です。
妙な間が空きます。
チラッと「所持金足りるかなぁ」とかアホな事が頭を過ぎりますが、機体の時計を見ると既に財布の中にあったはずの金額をオーバーしております。
(はいはい、雑念を掃う、掃う!)

YMM教官「07の文字よりも手前に着きそうな時はゴーアラウンド。三本線よりも先に着きそうな場合もゴーアラウンド。」
自分「はい…?」

最初「三本線」の意味がパッと掴めなくて、接地帯の事かな?その間にちゃんと降りろって事かな?と。

自分「3本線?……滑走路の中央ですか?」

(エライ着陸の範囲が広いなぁ…。パスが何か非常にマズったかな…?(汗))

YMM教官「07の文字よりも手前に着きそうな時はゴーアラウンド。三本線よりも先に着きそうな場合もゴーアラウンド。

1周してフルストップしてください。じゃあ、いってらっしゃい。」

え?いってらっしゃいって??

と、YMM教官、スロットルをアイドルにしてドアをあけてヘッドセットを抜いて、右席のシートベルトを誰もいないままロックして、すすすっと右席から出て行ってしまいました。
ドアを閉めて、ロックして、親指を立ててくれます。
そして主翼から降りて後ろに歩いていってしまいました。

多分、その時の私はリアルに「(・□・;)」のような顔になっていた事でしょう。

この時になって初めて「あ、これはソロに行って来いと言われたのか」と気が付きました。
右席ドアがロックされている事をもう一度確認して、スロットルを地上での待機中の回転数の1200回転に戻します。

ファイナルを確認してトラフックをぐるっと一周見渡します。
トラフィックの2機のモーターグライダーはTGLを終えて先に飛び去っています。

「大利根Local, JA2429、ラインナップ RWY07」

滑走路に正対して、磁石とDGを合わせます。トランスポンダーがALTになっている事を確認します。

「大利根Local, JA2429、 テイクオフ RWY07」

スロットルを半分ぐらい入れて真っ直ぐに走ることを確認してフルスロットルに入れます。
いつもより加速が良いです。
尾輪を浮かせます。

滑走路半分ぐらいで主輪が地面を離れます。
そのままいつもの110km/hの上昇姿勢に入りますが、いつもはゆっくりと速度の上昇に合わせて頭を上げていきますが、すぐに頭が上げられます。

「200ft、3000回転」
スロットルを少し絞って連続最大出力の3000回転へ。
「右に変進」
騒音苦情対策の為に川の上に出ます。

「400ft、燃料ポンプOff」
補助の燃料ポンプのスイッチを切ります。

「クロスウインドに入ります。レフトサイド クリア」
聞いてくれる人は誰もいないんですが、言ってしまいます。
「900ftにレベル オフ」
機首を水平に戻して上昇を止めます。機速が2650回転で安定してきたら姿勢を確認して、速度を確認して、バリオが0になっている事を確認してトリムを取ります。

「ダウンウインドに入ります。レフトサイド クリア」
川の上を通るようにいつもよりひきつけて回ります。
この時川との位置を確かめる為、そして万一ここでエンジン不調になった時の不時着地が龍ヶ崎飛行場も入る為、右席の先に見える龍ヶ崎飛行場を確認します。

ここでやっと右席を見る事ができました。
確かに誰もおらず、座布団に、閉まっているシートベルトがあるだけです。

何だかここでやっと「あ、ソロで飛んでいるんだ。」と実感する事ができました。

「プレ・ランディングチェックします。」
誰に向かって言ってるんだろう?
「フューエルコック オープン。チョーク、キャブヒート オフ。」
口に出さない方が早いし楽な事は頭ではわかっているのですが、口に出てしまいます。
「燃料ポンプ オン。燃料残量確認。」
何だかこの辺で感極まってきてしまって多分一人で涙声だったと思います。
「エンジン計器確認。高度900ftを維持。」
でもダウンウインドコールはちゃんとしなくちゃ、と何とかこらえます。

前にいるJA907BとJA2351はどこ行ったかな。
907Bはさっきファイナルコールしていたから多分もう降りているのかな。
JA2351は今ターニング・ベースか。
セパレーションは問題ないな。

左手の飛行場を見ると、相変わらず飛行場はそこにあります。
滑走路があってクラブハウスがあって、あそこに降りるんだな、とか、そんな事をぼーっと考えてしまいました。
今思い返すとあんまり前も見ないで飛行場の方を見ていたかもしれません。

滑走路の中央が左翼に隠れそうになる頃に無線を入れました。
1周だけなのでフルストップです。

「大利根Local, JA2429、オン レフト ダウンウインド、RWY07 タッチアンド・・・・・・あ、う、じゃなくて、フルストップ」

何かカミカミでした。
先行のJA2351の位置を追います。もうすぐファイナルに入るところでした。
はっと気が付いてダウンウインドの前方の遠い目標を探します。
視程が余りよくなくて遠くの目標は良く見えませんでした。
良い時は丁度レフトダウンウインドの正面ぐらいにスカイツリーが見えるんですけどね。それと富士山も。

JA2351がファイナルをコールします。フルストップのようです。

「ベースに入ります。レフトサイド クリア」
ベースターンをします。北部調整池の南岸に何だかは知りませんが割りと良く目立つ鉄塔が立っています。
それよりもうちょっと右を狙います。

ベースから滑走路を見ます。見すぎると寄っていってしまうので注意ですが。
クラブハウスの前の駐機場のあたりに何人か人影が動くのが見えます。
あ、着陸を見に出てきたのかな、結構いるな。ヘタクソな着陸できないな。
JA2351はもうすぐ着地です。

利根川の上空に差し掛かるあたりで、
「パワー レデュース」
スロットルを絞ってアイドルにします。
「滑空姿勢作ります。」
少し頭を下げて115km/hで滑空する為の姿勢を作ります。
何かトリムが上手く合わなくてちょっと時間を食ってしまったかもしれません。

トリムが取れたときには既に滑走路の真横でした。
「大利根Local, JA2429、ターニング ファイナル、RWY07、フルストップ」
急いで回りましたがそれでもかなりオーバーシュートしました。
一旦大きく左に振って、軸線に戻ります。ちょっと焦りましたが、オーバーシュート、アンダーシュートは慣れているので…(殴)

軸線が安定してスポイラーをアンロックします。
夕方も風はほとんど無く、ほとんど滑走路に正対したまま滑空していきます。
段々駐機場の近くにいる人たちがハッキリしてきます。
JA2351はグラスをタキシングしていますが、ウインドソックの前あたりで滑走路のほうに向きを変えているところでした。
見られているなぁ…。

ファイナルの利根川を渡りきって再上陸します。
パスも軸線も安定しています。速度計とバリオを確認しても115km/hがちゃんと維持できているようです。
軸線の左に少しずれているような気がしたのでもう少し右に修正します。
飛行場の手前の道路の上空を通過します。
少し右に寄りすぎた感じがしたので修正。25の向こうの鉄塔と鉄塔の間が白線の延長上にあることを確認します。
西側の駐機場の横を通過します。もう07の文字は追えないので水平線を見ます。
スポイラーをゆっくりと全開にしていきます。頭が下がるので少し支えます。
07の文字の上空に差し掛かります。沈みを止めるようにフレアをかける。

おわ、引きすぎて浮いた!(やっちまった!)
思わず手が緩みそうになって若干緩んだような気もしたのでその姿勢を保つように引いている事を再確認する。
フレアで浮いてしまうと滑走路に足が着くまでの時間がものすごく長く感じます(泣)
でもここで突っ込んだりしゃくったりしてはいけない、ガマンガマン……。
あ、でもやっぱり高いな…スポイラーちょっと閉めようかな…でもそのままいくか。

ドン。

何とか足はつきました。ふう。
そのままランディングロール。
行き足が弱まってきたのでスポイラーを閉じて、トランスポンダーを切ります。

自分「大利根Local JA2429、バックトラック」

方向を変えて駐機場の方に戻ります。結局ランディングロールで3本線の近くまで来ていたようですね…。
途中、ウインドソックの前あたりのJA2351の中からNOM教官とMZFさんが手を振ってくれていました。

YMM教官「29は元の駐機場に北向きでどうぞ」
自分「了解」

滑走路を出て駐機場の南に回ります。
スポットではKKI教官が両手を上げてマーシャリングしています。
その向こうにはカメラを構えたり構えていなかったりな人たちがいっぱい。
四捨五入40にもなって恥ずかしい限りですが、タキシングしながら泣いてしまいました。
自分でも嬉しいのか達成感なのか何なのか、良くわかりませんが涙をこらえる事ができませんでした。

スポットに止まって、チェックリストを使ってエンジンを止めます。
この時もやっぱり誰も他に乗っていないのにチェックリストを口に出して読んでいます。

「……イグニッション オフ、マスタースイッチ オフ、オールスイッチオフ。」

さすがに「お疲れ様でした。」はおかしいので口に出しませんでした^^;

ヘッドセットを取って、ドアを開けました。
待っていた方々に祝福して頂きました。
本当にありがとうございます。

大写しにしたら涙の跡が写っていたでしょうが記念撮影をしました。
非常に嬉しかったのですが、まだ何と言うかソロに出たという実感がうまくつかめていなくて、でもただただ嬉しいばかりでした。

機体を縛ってクラブハウスに戻り、まずは料金の精算をしました。
領収書兼飛行記録には3行の飛行記録が書かれていました。
KKI教官との同乗訓練、YMM主任教官との同乗訓練、そして「Tsubasa/SOLO」と書かれた行。

その通りに3行のログをログブックに書きました。
本当に偶然でしたが、ソロ飛行のログがログブックの新しいページの一番上になりました。

そして、ログブックの住所氏名の次のページに「グローブ式G109B型の局地飛行の単独飛行の技量があることを認める」と、
「最初の単独飛行を次ぎのとおり実施したことを証明する」にYMM主任教官のサインと捺印を頂きました。
あと、練習許可証の裏にもG109Bの単独飛行に出た事のサインと捺印を頂きました。
今度から実地試験に合格するまでの間、G109Bでソロ飛行に出る時は「この」練習許可証を携帯することが必要との事です。
大事にしたいと思います。

「ソロは突然やってくる」というのが大利根の先輩皆様が言われる事です。
年越しを跨いでこれだけ引っ張ってしまったのは一重に自分の未熟のゆえですが、辛抱強くサポートしてくれた家内と、我慢強く訓練をして頂いた教官陣の皆様に厚く御礼申し上げます。
そしてこんな私にもちゃんと「ソロは突然やって来て」くれました。

その後は恒例のクラブハウスの天井にソロ記念の一言を書いた紙を貼り、この季節にも関わらず容赦なく大量の水かけの洗礼をうけました。

その夜はJMGCのブログに自分のファーストソロが出ていて、何かニヤニヤしてしまいました。

これからも楽しく訓練を続けていきたいと思います。